峠の茶屋で休憩をとった。お茶と安倍川を頼むと、婆さんが持って出てきて辰吉の六尺棒をジロジロみている。
「当世の旅人は棍棒を持ち歩くのがはやっているかい」
「他の人も持っていたかい?」
「大坂の商人風の人が、天秤棒を担いで持っていたよ」
「ここで一服したのかい?」
「そうだよ、六人のやくざに絡まれてどうなるかとハラハラしていたら、あっと言う間にその天秤棒でやっつけてしまった、強かったねえ」
「それ、多分俺の知り合いだよ」
「そうかい、顔が似ている、兄弟だろう」
「えっ、そんなに若かったのかい」
「年の頃なら、二十四?五ってところだったねぇ」
「親父、喜ぶよ」
「なんだ、お父っつぁんかい、すると、あんた親不孝者だろう」
「どうして?」
「どうしてはないだろ、そんなやくざの形(なり)をして」
「うん」
辰吉は、胸にズンときた。
茶店から離れると、悪そうなガキに囲まれた。
「おい旅鴉、長ドスも持ってねぇのかよ」
「これが俺の長ドスだ」
辰吉は、六尺棒を振って見せた。
「ただの棍棒じゃねえか、それとも杖か?」
「馬鹿にするな、それにしてもこの辺は何なのだ、次々と変なやつが現れて…」
「弱そうな男が独り旅では、狙われるのはあたりめえじゃねぇか」
「お前らも、俺の懐が目当てか?」
「そうさ、たんまりもっているのだろう、怪我をしないうちに渡しな」
「それはこっちの言うセリフだ、江戸の辰吉、ガキどもに怪我を負わされるほど軟(やわ)じゃねぇぜ」
「よし、やってやろうじゃねぇか」
「この俺をやるのは、とてもお前らには無理だぜ」
「何を言いやがる、やっちまえ!」
一見、軟弱そうな辰吉だが、動きが素早くて、まるで鋼(はがね)がブンブン暴れまわるようである。三太譲りの強さで、忽ちガキどもを捩じ伏せてしまった。
「どうだ、まだやるか?」
「やらねえ、勘弁してくれ、おいら辰吉兄ぃの子分にしてくだせぇ」
「鬼ヶ島へ鬼退治に行くのだが、付いてくるか?」 主人亥之吉が旅に出て不在の江戸京橋銀座の雑貨商福島屋に何者かが忍び込んだ。誰も居ないの座敷から、「ガタン」と音がしたのを一番番頭の勝蔵が聞きつけて、様子を見に行った時は、もう賊は逃げたようであった。
「何か取られたものはおまへんか?」
女将のお絹が番頭に問うたが、旦那様の座敷からは、何も盗られたものは無かった。手文庫も持ち去られておらず、どこからも金を盗まれた形跡はなかった。
子供たちは皆寺子屋に行っている時間帯なので、拐かされた気配もない。一体何が目的で押し込んだのか不明であった。
「もしや…」